名誉や尊厳の問題もあって,失敗した話というのはなかなか出回らないものだが, 誰かの役に立つ話ではあると思うので,ここに供養する.
個人のあやふやで古い記憶を元にしているので, 少しでも情報特別演習が気になるなら公式のアナウンスを参照して欲しい.
TL;DR
- 筑波大学情報科学類の情報特別演習を受けたよ(2年次および3年次)
- 2回ともまともな成果が出なかったよ
- 2回も失敗したおかげで,卒業研究がスベらずに済んだ……のかもしれないね
情報特別演習
筑波大学情報科学類にて開講されている授業の1つ.通年,2単位. 好きなテーマを設定し,自分で選んだ先生の元で1年間研究する. 中間報告にて経過を,最終報告にて成果を発表する.
最近は人気が増してきたようで,先生によっては受け入れ定員をオーバーすることもある. その結果か,「どんなテーマでもいい」という設定ではあるが,普通に研究のレベルが高い.
やらかし
1年目
当時は2年生だった. なろう小説の解析をテーマに据え,データ工学を扱う研究室にお世話になることになった.
院生のメンターさんまでつけてもらい,定期的に先生と面談することになっていた. しかし当時の僕に定期的な進捗を出すことはできず,「進捗ありません」と言うだけの肝っ玉もなかったので,数ヶ月で面談に行かなくなる. 結局,そこから最後まで先生とは音信不通だった.
最終報告では,なろう小説作品のランキング上位と下位1の文章を形態素解析して1次マルコフ連鎖のグラフを出し,下位の作品は上位の作品に比べて日本語の文法的に正しくない連鎖が多いことがわかった,的なことを発表した.
2年目
当時3年生. 小説を構造的に書くためのエディタの作成をテーマに据え,ユーザインタフェースを扱う研究室にお世話になることになった.
COJTを履修していたためちょっと忙しかったこと, 当時まだ広く使われていなかったSwiftUIを使ったことで誰も質問できる相手がいなかったこと, 小説を書かなくなっていたためモチベーションが薄れていったこと2 が原因で,ほぼ進まなかった.
最終報告では,未完成のアプリケーションに実装された数少ない機能のひとつひとつを長々と説明した後, 静まり返った質問タイムで当時の学類長が出してくれた助け舟「なにか学んだことはありましたか?」に対して「…………ありません」と答えた3.
過去を振り返って
2回のやらかしから学んだ,研究に役立つことを述べる. 各位の参考になれば幸いである.
情報特別演習はいいぞ
やらかし話を(しかも2年分)書いたので一見矛盾するような話ではあるが, 情報特別演習は良い授業である. なぜなら,情報特別演習は失敗がかなり許される場であるからだ. 対比となるのは卒業研究で,それなりには失敗しても大丈夫なようになってはいるが, 致命的な(ex. 1年目の自分のように先生と会わなくなる)失敗は卒業の可否にもかかわる.
ちなみにうまく行った研究の中には,学会発表に繋がったものもあるらしい. 気力や時間と相談しつつ,是非ともこの授業に挑戦してみて欲しい.
好きなテーマを選ぼう
情報演習にせよ,卒業研究にせよ, 自分の趣味に近い4テーマを選ぶメリットは, 研究のモチベーションを維持しやすいところにある.
モチベーションが薄れやすいと, バグの解決に取り組む精神力がなくなったり, 関連研究のサーベイが中途半端に終わったり, 実装が後回しになったりして進捗が滞りがちになる. コンスタントに進捗を出せるだけでも十分な強みになると思うので, できれば自分の趣味に合うテーマを選ぶことをおすすめする.
挑戦しよう.ただし,ハードルの高さは調整しよう
研究とは,それだけで挑戦だと自分は思う. だから,可能な限り研究の主旨と関係のないハードル (特に技術的ハードル)は下げる方がいい.
第一に気力の問題がある.
ただでさえ,研究には困難がつきまとう.
自分の研究の新規性や有用性を説明する言葉が見つからなかったり,
苦労して発見したことが先行研究に書かれていたり,
会心の出来と自負していた論文が査読に通らなかったりすることもあるだろう.
そういうとき,ハードルが高いと手が止まってしまいがちだ.
ひとつの変更を加えるために必要な作業量を考えるだけで嫌になるし,
ひとつの機能を削除するときにこれまで投じたコストを考えて躊躇してしまう.
研究を完成させるために,このような試行錯誤を妨げる要素はなるべく取り除いておきたい.
第二に時間の問題がある. ただでさえ,研究には時間がかかる. 何事も分野によるが,研究には実装以外にも,アイデア出し・関連研究のサーベイ・実験のための書類作り・実験の実施・論文の執筆とやることがたくさんある. それに加えて,学生には研究の他にも,単位を取る・インターンに行く・適切に休む5など,それなりにやることがある. ひとつひとつのタスクに必要な時間を減らすことで,多くのことをこなすことができる. ハードルを下げておくと,必然的に実装にかかる時間は短くなり,余った時間を研究やQOLの向上に充てることができるだろう.
技術的なチャレンジが楽しいのは間違いないので,研究の遂行に支障のない程度に抑えるか,そもそも研究と関係のないところでやるのがよさそうだ.
研究室は選ぼう
物事の善悪とは関係なく,人と研究室および教員には合う合わないがある. 研究室の雰囲気や教員の性格は行ったり会ったりしないとわからないので, 興味と機会があれば知っておくことをお勧めする.
個人的に,進捗がなくても研究室に行けるかどうかは特に重要だと思う. 自宅以外の作業場所であれば集中できるということもあるし, 先輩や同輩の知識が進捗を妨げていた問題を解消してくれる6こともある.
最後に
研究のやり方が人それぞれなのは間違いないが, なるべく汎用性のある知見になるよう努めたつもりである. 同じ失敗を二度と繰り返さないと断言できる性分ではないが,それでもこれらの知識は, 卒業研究の遂行を陰ながら支えてくれたように思う. 読んで一笑に付すもよし,他山の石とするもよし, とにかく,この記事を読むのに要した時間が無駄にならないようなら幸いである.